連続セミナー「子育てにかかわるコミュニケーションを考える」開催報告


セミナー第4回の様子
セミナー第4回の様子

 これまでの調査参加者を中心に、子育てをテーマにした合計4回の連続セミナーを、2022年6月から9月まで開催しました。子育てに関する心理学や社会学から新たな視点を学ぶことで、子どもや身近な人とより生きやすい関係をつくるヒントを得ることが目的です。各回のセミナーでは、講演を踏まえて、参加者と講演者、福島子ども健康プロジェクトの関係者で、これまでの体験や考えを語り合い、交流する時間を持ちました。参加者の皆さん、講演者の水木理恵さん、出口真紀子さん、セミナーの企画・運営をリードしていただいた栗本知子さん、どうもありがとうございます。コロナ禍の影響で、第1回と第2回は対面とZOOM併用のハイフレックス、第3回と第4回はZOOMだけの開催となりました。この企画はトヨタ財団の研究助成で実施しました。記して感謝申し上げます。

第1回「あなたとわたしの境界線 自分を守り、人を傷つけないコミュニケーション」(6/19)概要

 第1回は「あなたとわたしの境界線 自分を守り、人を傷つけないコミュニケーション」と題し、水木理恵さん(福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター助手。専攻はカウンセリング心理学)にお話いただきました。

 

 「境界線」とは、自分を守り、他者を守るために自分と他者との間に引くのものです。例えば、人から勝手に気持ちや考え、行動を決めつけられる、否定されることは境界線の侵害です。侵害されたときには「NO」と伝えて押し返す。また、もし押し返されたら、謝罪をして受け入れることが大切です。

 

 親子間のみならず、周囲の人々との健全な境界線構築を促すことで、傷つけあうのではなく、互いを尊重できる関係へとつなげていけるのではないかというお話でした。

 

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第2回「日米子育て事情 ご近所とのつきあい方、どこが一緒でどう違う?」(7/17)概要


 第2回は「日米子育て事情 ご近所とのつきあい方、どこが一緒でどう違う?」というテーマで出口真紀子さん(上智大学外国語学部教授。専門は文化心理学)にお話いただきました。

 西洋の独立型自己観とは異なり、日本は「自己」と「他者」との間ではっきりとした境界線を引かず、他者とのつながり、関わりを大切にする協調型自己観です。西洋の子育てでは、自己抑制より自己主張のできることが重視されますが、日本では、自己抑制が出来て協調性があることが重視されます。

 近年では、日本社会も協調型自己観から独立型自己観へと変化してきているとも言われています。例えば相手を責めるのではなく自分の考え、気持ちを伝えるI(アイ)メッセージを使う。息苦しい内集団(世間)での付き合いは浅くし、SNSなども活用して、自分らしくいられる友人と付き合うといった風に、柔軟性をもって、いろんな自己観を使いこなせるようになることで、お互いもっと生きやすい社会にしていけたらというお話でした。

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第3回「こころもからだも大変身 思春期ってなんだろう?」(8/21)概要

 第3回は「こころもからだも大変身 思春期ってなんだろう?」と題し、第1回に引き続き水木理恵さん(福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター助手)にお話いただきました。

 身体も心も大きく変化し、子育てが難しい時期と言われる思春期の子どもの発達について学び、大人としてどのように思春期の子ども達と接していくかを考えました。

 思春期には、第二次性徴など生物学的な発達がおき、セクシュアリティの発達もみられます。子どもたちがアイデンティティを獲得し、身体と心の性の発達をあるがままに否定されずに受け入れていけることが大切です。健全な社会的、情緒的発達、特に、自分の情緒を効率的に調整する方法を学ぶためには、応答性の高い大人との継続的関わりが必要です。それによって、安定型アタッチメントが形成されます。思春期の子どもの成長を支えるには、親子の間でのやりとりとして、ポジティブな関心が向けられ、子の養育者への信頼を育むことが鍵となります。

 ただ、子どもは発達過程において思ったより幼い側面もあるので、発達段階のつまずきがみられる場合は、2段階ぐらい戻ったかかわりをするとよいでしょう。養育者の心の余裕がなく、応答性の低い親の対応のもとでは、情緒の調整が難しい子どもとなって、それがさらに親の余裕をなくすという悪循環に陥りかねません。まずは、養育者自身がセルフケアにつとめてください。

 

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第4回「ちょっともやっとする、嫌な言動 マイクロアグレッションってなに?」(9/18)概要

 第4回は「ちょっともやっとする、嫌な言動 マイクロアグレッションってなに?」というテーマで、第2回に引き続き出口真紀子さん(上智大学外国語学部教授)にお話いただきました。

 マイクロアグレッションとは、日常の相互作用において、互いの尊厳を傷つける攻撃性のある言動を意味します。こういった言動の多くは悪意がない、無意識の場合が多いですが、マジョリティ側からマイノリティ側へ、社会的に力関係が非対称で、構造的に弱い方に対して行われる集団属性に基づく言動です。福島にひきつけるならば、福島県外に行ったとき、「福島から来ました!」と言うと、「福島は大変でしょう!」と言われて、何だかモヤモヤしたことはなかったでしょうか。

 1980年代にセクハラという言葉が生まれたときの女性たちの体験と同じように、マイクロアグレッションという概念は、構造的に弱い立場の人々が、これまで「気にしすぎじゃない?」と、否定されたり蔑まれたりしてきた経験を、リアリティや正当性をもって表現できることにつながりました。

 子ども達ともこの概念を共有することで、「あなたのせいではないよ」と肯定することができると思います。誰もが、もやっとしなくていい、自分らしくいられる風通しのいい関係性をつくるための学びの場となればと考えています。

 

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参加者の感想

第1回

・相手の感情は相手のもの、相手の不快は相手の問題なので、自分がそこに責任を感じることはないし、相手を責めることもない。自分が伝える必要があってした発言は、自信を持って言ってみようと思います。もちろん、侵害したら謝ることも気をつけます。(郡山市 Kさん)

・率直に、境界線のセミナーを聞いて、もう一度子育てをしたいと思いました。無我夢中で子育てをしてますが、これを理解して気持ちに余裕を持って子どもたちと接することができたら、と思います。(郡山市 Uさん)

・親子関係における境界線、自分は子ども達を尊重できているのか再確認する良い機会になりました。資料を読み返し、時には振り返って確認することを忘れずに過ごしたいと思います。娘が友人との関係に悩んでいるので、今回のお話を元に彼女の気持ちに寄り沿ったアドバイスが出来るのではないかと思いました。また、兄妹間のトラブルにも役立てられるのではないかと考えています。(郡山市 Oさん)

 

第2回

・自分が、子育てで大切にしてきたことが、実は、独立型に近い接し方をしてきたんだと知り驚きました。自分が子どもの時に「女だから…」と強制されたことに対する反発からだったのですが、子育てを認めてもらえたようで、うれしいです。セミナーに参加すること事体があまりないので、楽しかったです。勉強になりました。(福島市 Kさん)

・相手を侵襲せずに主張する。自分の子どもだからこそ、そこに注意して向き合っていこうと思います。

「バイカルチュラル」ですね!(匿名)

・集団の調和を保つため、日本人は我慢をする、協調性のある子が良い子とされる。故に大人になっても自己主張がしにくくなってしまうというのは実感としてあります。しかしなにかきっかけや思い、使命感があれば、そこを打ち破ることもあります。自己肯定感が高ければ、自分も他人も認めることができる。わたしは出産前に、どんな子に育ってほしいか考えた時、「自己肯定感の高い人になってほしい」と思っていました。(匿名)

 

第3回

・子どもの発達に関して、今までも学ぶ機会はあったのですが、その学びが水木先生のお話により実生活と繋がった気がしました。子どもにとっても、どうしようもできない感情や体の変化に戸惑っている時期だと思うので、親の私は表出されるものに反応しすぎないようにしていきたいと思いました。(郡山市 Kさん)

・自分のこどもが思春期なので、理論的な説明も息子がたどってきた成長過程を思い出しながら、うんうん、そういうことだったのね!と感じながら楽しく聞くことができました。特に印象に残ったのは、発達段階はピラミッド型でつまずいたときは2つくらい下に戻って考えること、思春期のこどもは大人として接するけれどたまに赤ちゃんになることです😊 今のところ中2の息子とひどいバトルはしていないですが、今後対応に困ったときは今日の講座を思い出したいと思います。(郡山市 Yさん)

・専門家の方々の理論をベースにしてこれからの子育てに頑張って行く上で、背中を押してもらえた気がします。

「母親が笑顔でいることが1番大切だから、お母さんはセルフケアをしてください」

この言葉は自分を1番に考える時間を持ってもいいんだ!という勇気をもらえました。後ろめたい感情が多少なりともあったので、これからは子ども達にちゃんと宣言してリフレッシュしたいと思います。(福島市 Kさん)

 

第4回

・マイクロアグレッションという言葉に最初はピンときませんでしたが、自分の行動パターンを振り返る良い機会になりました。相手が話した内容をあれこれ忖度しているうち、抗議したり反論するタイミングを失い、結局心にモヤモヤだけが残ってしまう…。マイクロアグレッションの概念が自分の中に定着していたら、また違った立ち回り方ができていたのかもしれません。そして、誰もがマイクロアグレッションを行使する側にも受ける側にもなる可能性があるからこそ、どんな出来事にも冷静で客観的な視点を持ち続けていきたいと思いました。(郡山市Yさん)

・マイクロアグレッションを自分がしてしまった時に気づけるようになりたいです。反対に、されてモヤモヤしたときは、疑問を呈したり自分の気持ちを伝えたりして、お互いに気持ちよくコミュニケーションがとれるよう工夫したいと思います。自分のためでもありますが、こどもたちやのちの世代のためにも、少しでも環境を整えていけたらとも思いました。(郡山市Yさん)